榎木孝明の近況や日々感じた事柄を文章にして、毎月更新しています。
榎木孝明
2026年5月1日 髪が伸びて
“僕の髪が肩まで伸びて、君と同じになったら、約束通り街の教会で結婚しようよ~“は、若い人には馴染みが薄いだろうが、吉田拓郎の「結婚しようよ」という、私の青春時代の大ヒット曲である。19歳の頃の私の髪も、実際に肩まで届きそうに長かった。今や再びその長さになった髪を見て、半世紀の時の移り変わりをふと思う。
50年と言う時の長さは、人によって長かったりアッという間だったりするのであろうが、大方の人は若い時には、歳をとった自分を想像すらしないだろう。そう言う自分もそうであったから、身近に古希を過ぎた人物がいても、自分の将来の姿と重ねて見る事はなかった。そしてその歳に自分がなって初めて、老人になった自分を自覚するわけである。という事は、私はアッという間の人生の類であろうか。
平均寿命がずいぶんと伸びた今では、長生きする事は良いことであると言うのが大方の意見なのかもしれない。ただし、現代社会は老人にとって優しくない社会であるとも言えそうだ。誰からも看取られない孤独死が増えている現状は、現代の老人たちに直に聞いてみないと、果たして長生き社会がどう受け止められているのかは定かではない。
一見すると、科学文明の恩恵を受けた人類は、AIや通信機器の発展のおかげで、随分と便利になった世の中を享受していると言えるだろう。一方、効率を追い求め、競争を煽り、個人の権利を最優先にしてきた結果、何か大切なものを失くしてしまったのではないかとの見方もある。ある歴史学者が「過去の文明の崩壊は、人と人との間に信頼がなくなった時に急激に進んだ」と言っていた。
それを念頭に改めて世界を見渡すと、社会的秩序の低下、分断の拡大、格差社会の進展、共通目的の喪失、制度の形骸化などが進んでいるのも事実であろう。人間社会を支えるものは制度でも経済でもなく、人と人との間にある見えない信頼、そしてその信頼は、一人ひとりの日々の行動から生まれると言うことを、老境と言われる年になって改めて感じている昨今である。
榎木孝明